記憶を辿る 40話
– 狂乱高校 前編 –
上には上がいる。
私が編入した先の高校(38話)は、正にその振り幅は青天井のような高校だった。一癖も二癖もある不良はデフォルトで、今でいうメンヘラ部隊も底なし。年齢も無制限だった。
真っ当な学校の入学は教科書を買い、運動着なども指定着を購入する。
しかしそれら一切がないから、制服などもっと無い。
校則や年齢制限というものがないからタバコもOK。
ありがたいことに、食堂や教室の横には喫煙所が併設されていた。流石に飲酒している奴は見なかったが、誰1人として授業でノートを出す生徒はいない。
人は自由や足らずを追い求めるが、そもそもこの高校に入ってくる奴は、行き着く所まで行った奴だらけなのだ。強制されるような事が起これば、制御不能なことぐらい百も承知で受け入れ、出来る限り矛先が校内に向かないようにだけ徹底されていた。
生徒もその見た目とは裏腹に、授業中は皆が大人しかったが、それは教師がいる授業中だけである。昼食を取る食堂では、動物的本能からくる弱肉強食の争いが繰り広げられる。
ここの不良は、俗に言うメンチの切り合いなどなかった。
一様に目つきが悪い連中の掃き溜めである。
目は口ほどに物を言い、それが好戦的な目か、たまたま合っただけなのかを瞬時に把握、好戦的な目をした相手には有無もなくパイプ椅子が使われる。
まるで海外映画にある、人種同士で徒党を組む監獄と同じ有様だ。
1人だった私は去勢を張り、埋もれないようにしていたが、内心は「えらい所に来てしまった」と思っていた。救いだったのは、通学が週1あるかないかだったことと、たまたま後輩も通っていていたことだった。
奇跡だった(笑)
これに加え、体育のみを共にするドレッドヘアの2人組とも仲良くなった。
当時ドレッドヘアなど決めている者は、ラップをしているかダンスをしているかのどちらかで、ブラックカルチャーど真ん中の連中だ。お互いに興味が生まれたのか会話は弾んだ。
この仲良くなったこのコンビ、おしゃれなだけでなく体格も共に筋骨隆々で、着替えの際に見た一方の背中には「どうしたらそれだけ大きい裂傷痕がつくのですか? 」という程の裁ち傷があった。不慮の事故でついた傷であったとしても、彼らが放っていた雰囲気は、不良の定義である”強くて格好良い”そのものだった。
ある日、体育後にコンビと会話をしながら食堂へ向かった時の事。
10m以上先にあるテーブルに、漫画”北斗の拳”に出てくるラオウのようなヤツが座っていた。ノーティカのマウンテンジャケットを肩で羽織りながら、食堂のテーブルにティンバーランドの重たいブーツを放り投げオットマン変わりに座るラオウ。
許されるなら用事を思い出してUターンしたい。
意地という指令だけで足は止まらず食堂へ向かっていく。
それまで見た、どの不良よりも圧倒的存在感を放ち、目が合ったコンマ数秒で感じる恐怖。横には何人もの仲間を従え、ドレッドコンビは挨拶に駆け寄っていく。もはや京都で愚連隊気取りだった私の敵う相手ではなく、もし”不良年鑑 京阪版”があったのなら、間違いなく彼は巻頭カラーを飾っていたはずである。
様々な地域の悪が通ってきていたこの狂乱高校の天上人、ラオウ。
その彼がこちらを指差し、ドレッドコンビが何かを伝え、相槌を打った姿までが私の脳裏に残っている彼の姿だ。こちらに向けた指の意味は何だったのだろう?
用事を思い出さなかった事に腹を立てたのか、それとも私ではない後ろの花壇の花の種類を確認したのだろうか。あれほどに人と対峙した時に恐怖を覚えた事はない。
“井の中の蛙”、”蝦踊れども川を出でず”だった自分に再度気付き、粋がる事や悪びれた行為を繰り返す自分が急激に恥ずかしくなっていったエピソードだ。