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ちんぷんかんぷん

月一の帰省に併せて通ったのは大阪の学校だった。
日曜日の午前中にその授業は行われ、初心者からプロまでが実力に合わせて学べるような学校で、大阪の本町あたりで開催されていた。

もちろん私が選んだのは初心者が学ぶ型紙講習会だ。
製図とはこういう風にするのですよ〜こんな感じで寸法を出して広げるのですよ〜といった猿でも分かるレベルを想像していたのだけれど、それは全くの的外れだった。

そもそも専門学校などで学び、手芸用品店で売られる型紙を自分用に改良しているような人ばかりが生徒。企業でパタンナーとして働きながら、基本をもう一度という方もおられる有様で、猿以下の私がついていけるはずはなかった。

受け持った先生も現状を把握するや否や、今のあなたには無理かもしれないけれど、折角受講しているのだから頑張れ頑張れとか言う始末。問い合わせで聞いた内容とは違った現場に憤りを感じながらも食らいつこうとする。

しかしレベルの差は歴然で、その差を埋めようとすればするほど空回りをしてミスを連発。進んでは最初からやり直しを繰り返し、制限内に終われる課題は何一つなかった。

終われない課題は次回繰り越しだが、それもまた差がついていく。
生徒がテストを提出する中、まだ1問目も解けていないような状況。
確か合計6回で終了だったと思うが、わずか3回でドロップした。

数字の絡む製図の世界は向かない不甲斐なさに嫌気はさしたが、ある気付きをもたらしてくれた。それは何でも自分でしようとするからおかしくなるということだった。

何でも出来る、こなせる事がお前に課された使命だと教えられ、それを実行すべく努力を重ねても、向かない事があるんだという発見は大きかった。

もちろん不得手な事でも、何度か挑戦してみての判断にはなるが、手放してプロに任せるという判断があることに気づいた。

よくよく考えたら父にしても全てが出来る人ではなかった。
電気関係の配線は無理だったし、寄り合いごとは避け、私が得意だったサッカーのボールには触れようともしなかった。これよりも後年になって気づくのだが、父は完璧なんだという姿は、私が小さい頃に都合よく抽出してしまっただけだったのだと思う。

オリジナル商品を開発していく上で、並行して進めていた事がある。
それは山城だけのオリジナル生地の開発。

B品やC品を染めた製品を着たら最高に気持ち良い。
しかしそれはクレープ肌着としての気持ち良さであり、私が追い求める生地感、時代性とは異なっていた。

何とかクレープ肌着の気持ち良さはそのままで、現代の生活様式にも合うような生地に出来ないか? 外着としても着れる生地感は? と父親にも相談しながら開発を始めた。

2000年当時、大手繊維メーカーは化学繊維を使った着心地の良い生地の開発に余念がなかった。ユニクロが大ヒットさせたフリースやスリムフィットのストレッチパンツなどがそうで、この頃から”伸びる”は必須になっていったように思う。

私が目指したのは綿100%でニットのように伸びる織物。

下請け業だった山城だけれども、長年の慣習でメーカー様を飛び越え、納期確認などで生地屋さんと連携をとっていた事が幸いし、あぁでもないこうでもないという要望を叶えていく事ができた。

目指す生地は糸番手はこうで、撚り回数はこれぐらいで仕上げはこういう仕上げでと。この中で一つ違えば生地の風合いは大きく変わるから、それらは膨大な試験が必要だったし、この時に教えていただいた細かな部分は今も活きている。

サンプルだからすぐでしょ?
なんてのは浅はかで、縦糸を変えるだけでも1ヶ月はかかる。

糸番手や撚り回数の違いを含めた数種類のサンプル生地を作るだけでも3〜4ヶ月。これに改良を加えていくのにまた数ヶ月を繰り返すうちに月日は流れ、気づくと3年も経ってしまっていた。

それだけ月日がかかったのは、知識や知恵がまだまだ不足していた事は否めない。今ならもっとピンポイントで指示を出したり、要望を伝えたり出来るのだけれど、この頃はまだまだ走り出したばかり。

これで完成だ! と意気込んで作成したシャツが、染色工程で恐ろしく縮んでしまうような無知からくる大失敗もした。

お客様が着た時、洗濯された時にベストな寸法になるよう、縮率と呼ばれるパーセントを含んで型紙は作成するが、当初のシャツはそれを含まず作成したものだから、想定するよりも小さな小さなシャツが出来上がってしまったのだ。

しかしこの失敗は今の山城らしい伸縮性と柔らかさのある生地を生むことに繋がり、失敗から得た教訓や対応策を利用して、全て良い方向に進める工夫と知識、知恵を身につけるようにもなっていく。

トライしない事が失敗だというのは本当だと思う。
むしろ失敗から得る知識や経験の方が、すんなりと成功してしまうよりも良いのではないかと思ってしまう。これからもそれらを包括しながら楽しんでいけたら最高だ。

三代目のコラム 記憶を辿る86話に続く

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