記憶を辿る 116話

– ゾワゾワ感 –
こうなってくると下着縫製、いやクレープ肌着の縫製しか手がけてなかった山城では手に負えない商品が出てくる。
それをカバーするために新しく、縫製を依頼できる外注先、
振り屋と呼ばれる人達を開拓することになった。
しかし…これで一安心!
とはならず問題はすぐに顕在化。
縦には伸びないが、横には伸びるという独特の生地感が新しい取引先を悩ませた。
ちゃんと取引ができるかを検証するためにサンプルを作ってもらうのだが、
そう簡単に問屋は卸さなかったのだ。
伸びてはいけない箇所が波打ったり、良いのできたのでは?と思って洗濯や染色をすると、”縮み”が入った分おかしな出来になったり。
そんなやり取りをしているうちにドンドン新型依頼が入ってくる。
憧れだったSOU・SOUとの取引に心は躍り、体育会系ノリが強い私は、
「はい!大丈夫です!!」
と何の根拠もないまま進めたもんだから、身から出た錆といえばその通りなのだが。
ゴールデンウィークに合わせて販売予定だった商品が入っていた3月後半。
それは突如として起こった。

デザイン的に山城で縫製が難しいと考えた私は、何度か依頼して上手く上がっていた縫製会社に依頼。
当初は先方も「OK! OK!」と快諾されていたのだが、
途中経過を聞くために連絡を入れると
「まだ手がけてないけど、大丈夫」との返事。
また時間をあけて連絡を入れると「いつ納期だったかな? あぁ、まぁいけると思う」と
返事の内容に雲行きの怪しさを感じはじめ、
遂には居留守まで使われはじめる。
柄物なら縫製してフィニッシュだから納品に余裕はある。
しかし縫製後に染色する手筈だったその商品達は、染色加工、仕上げ加工のスケジュールも考慮して進めなければならない。
この時すでにギリギリのタイミングではあるが、何とか頑張ってもらえたら納品できるスケジューリング。
完成品までに至る協力業者と朝から晩まで調整を重ねた。
同時期に百貨店催事が何週も重なる最悪のタイミングで、
搬入、販売、移動が続く中の出来事だった。
“のらりくらり”を繰り返す先方に業を煮やした私は、
たまたま百貨店から車を飛ばせば何とかなる距感に工場だったことから、
先方の工場に突撃した。
突然来訪した私に苛立ちを隠せない様子だったが、
私も大切な取引先から預かった商品の納期があるのだ。
何ともいえない腹の下からくるゾワゾワした焦りは、
何をしていても心ここに在らず状態を生み出し続けていた。
後には引けず問いただすと、生地が置かれている方向に指を差す。

]その先の光景を見て、私は大きなため息と一緒に目を閉じる。
既に裁断は済んでいて、縫場に入っていると報告されていた商品が、
未だ生地の状態で置かれ、何なら開梱さえもされていなかった。
どうにもならない状態だが今すぐに縫製に入らなければ間に合わない!
「大きな案件が入ってしまったから後回しにした」
との回答に心の中では”ブチ切れ”てはいても、
何としてでも縫ってもらわなければいけないのだ。
心の声を抑えながら先方の機嫌を取って頭を下げ続ける。
そしてこの時「あぁ、わかりました。明日から入ります。」
との回答を得るに至って工場を後にした。
三代目のコラム 記憶を辿る117話に続く