記憶を辿る 53話
– 米軍基地 –
怪しげな白人に連れられ到着したのは米軍基地。
仰々しいゲートを守る軍人が車内を覗き込み、彼のパスを見ながら話しかける。
私が躍起になって道中で行ったプロファイリングは検討外れに終わり、怪しげな白人の正体は、本土から来た軍人だと判明した。そうなると後ろで寝ている犬も、急に勇ましく思えてくるから不思議だ。
しかしこのパートで大切な登場人物である白人の名前を忘れてしまった(笑)
どうやったって思い出せないのでジョンにしておこうと思う。
意思疎通は全てボディランゲージ、聞き取れるようなワードが出てくると「 アハンウフン 」と相槌を打ちながら、何とか勢いで乗り切る私。そんな拙い会話で「 なぜ米軍基地に来たんだ? 」と聞くと「 ボートで楽しむビールやお菓子の買い出しだ 」と言う。
こうして広大な基地内の売店へと向かう。
到着した売店は想像したよりも簡素で、役所の雰囲気を残す売店だった。
ブルーグレーの什器が並ぶような、パシフィックファニチャーが扱うような感じだと言えば分かるだろうか。常夏ハワイにあるからか、恐ろしくクーラーが効いた売店で、過度な物はなく、必要最低限の商品が並ぶだけだった。
外で買うよりも安いというビールやお菓子をカゴに詰め、お会計に向かうとジョンはレジに居た軍人と親しげに話を始める。
その会話の内容の多くは分からなかったが「 アレあるか? 」のような事をジョンが聞く。軽く頷くと2人は奥へ行き、何かをポケットに入れるようにして戻ってきた。
何か物騒な事をしているのは分かったが、首は突っ込まず放置した。
売店を後にしてからは、基地内を軽くドライブしてくれた。
ジョンにしてみればサービスだったのだろう、平和なオプショナルツアーでは絶対に体験できない事が、矢継ぎ早に訪れる予想外の展開に胸を踊らせ、彼が持つウェイクボード用ボートを停泊させている係留場へと向かう。
オアフ内にある、どこかの入江に造られた係留場。
ゲートを抜け入っていくと様々なボートがずらりと並ぶ。
今は亡き梅宮辰夫さんが、特番で松方弘樹さんと共にカジキを釣っていたような大きなボートから、ジョンが持つウェイクボード用のボートまで色々だった。
滑り出すようにハワイの大海原に出航すると、ワイキキとはまた違うハワイの魅力が広がる。
降り注ぐ太陽光と紺碧の海から受ける潮風と水飛沫。ここでイルカやクジラでも登場してくれたら最高だろうが、私の持つエピソードはそこまで甘くない(笑)
波のそう多くないポイントにつくと、基地の売店で購入したビールで乾杯。
ようやく本日のメイン、ウェイクボードを始める手配をジョンが始める。
友人や先輩に連れられ、何度か琵琶湖で経験したウェイクボード。
スキーの板のように両足別々でボートに引っ張ってもらうものは水上スキー、両足を固定したボードを牽引してもらうのがウェイクボードというウォータースポーツだ。当時、流行り出した頃だったが、日本で経験したウェイクボードは、皆がジェットスキーを使って牽引するスタイルだったから、大きな波の立つウェイクボード専用のボートに驚きを隠せない。
スノーボードは回転系もこなせたが、こちらでは技など繰り出せそうにもない。
ジェットスキーとは違い、ボートの重量から生み出される内波から外へ出られないのだ。出たと思えば、何度も何度も水面に投げ出される私の元に、ラインと呼ばれるロープを流しては引っ張るを繰り返してくれた。
外へ出られるようになると、今度はまた内波へ戻り、また反対側の外に出ろという指示が出る。
出来たら、その外へ出るタイミングで飛べという。
スピードと浮力を活かし、内波に当て込んだら勝手に飛ぶからと。
既に足には乳酸が溜まって震えている。
ジョンの軍人感を味わいつつ、私もどうにか着いていこうと必死だ。
休憩も時折はさんでくれたが、スパルタ教育は続く。通常のオプショナルツアーでは考えられない(笑) 何もウェイクボードで飛べるようになろうという趣旨ではないのだ。
どうスイッチが入ったのか分からないが”終わりは飛ぶまで”になっていた。