明転
– 明転 –
8月半ばで京都にある店舗を一時閉店するに至ったこともあり、お気づきの方やご存知の方もおられるかと思うが、ここで一つの区切りとして報告させて頂こうと思う。
WEBショップ配送の移管、会社、家族の引っ越しを経て、朝倉町にある本社は、来年3月末を目指して、建物をフルリノベーションする。
既に毀(こぼち)に入っているが、建て替えではない。
躯体は残し、各箇所に補強を加えた上で間取りなどを刷新するフルリノベーションである。
当初は建て替えビル案で進行していた。
出てきたCGデザイン案に心が躍り、家族やスタッフと夢を見た。
この話は二代目の若かりし頃、私の幼少期から何度も火は灯るが、幾多の理由で経ち消えてはまた再燃を繰り返した案件で、足掛け30年にも及ぶ話だから尚更である。
昔年の想いが詰まった案件に失敗は許されない。
賃貸や不動産のプロに何度も相談を重ね、山城の事業を見直し、新事業も含んだ全ての角度、方向から思案し熟考してきた。関係して頂いた皆様には、心からの感謝をお伝えしたい。
こういう状況になった時、考えすぎになることがよくある。
答えが出ずに行き詰まり感が出始めた頃、ふと会社の前に立ってみた。
山城が現在に至る歴史の中、私の生家でもあるこの館でどれだけの人の心や想いが交差してきたのだろうかと、
ふと想いを巡らせたのだ。
初代からの伝聞、二代目や嫁いできた母が伝えてきた歴史、家族や親戚、裁断工、住み込みの縫製工や内職、躍動感あふれた時代の取引先や慣れ親しんだ顧客様など、様々な人がこの場所で交わり、未来を作り出してきた場所。
まるで語りかけるように、館の持つレコードが走馬灯のように頭を駆け巡る。
その瞬間に腹が据わり、心を決めた。
「これまでの姿を残したい」。
私個人は何でもかんでも物や事を手放す方法を好む。
本を読めば値が崩れない内に amazon で売り捌き、衣類や雑貨などの不用品はメルカリ行き。猪突猛進、何事も新しく立ち上げていくプロセスが大好きで、生産性のない話には辟易する。
立場や職業、場所が違っていれば、スクラップ&ビルドが最適な対応策だっただろう。
しかしその選択は取らなかった。
それはかつて訪れたニューヨークのWTCを望む摩天楼の光景や、東京の各地で感じた、その場所にあるはずの建物が無くなっていた時の寂しさや空虚感、思い出ごと吹き飛ばすような破壊力で行き場のない思いを感じた体験があったからだ。
人はそれぞれ心の中に思い出を刻み、自分自身を生きている。
あなたのためだからと美麗句を並べても所詮は自分だ。
しかし人は人と交わることでこそ価値があり、だからこそ人の為に尽くす事が幸福に繋がる手立てでもあるのだ。
山城がこれまで紡いだ70年の歴史は、多くの支えがあったからこそ。
古い山城を知る方々が来た時、そこに馴染みのないビルが建っていたらどうだろう?全く知らない人が営む店になっていたらどう思うだろうか?
京都という土地に生まれ、新しいエピソードを生む場所として過去を再生していく。多くの人間が交わったこの場所を、新しい未来へと繋ぐ交差点の役割を担い、
明るい未来を築ける場所であって欲しい、皆が気軽に立ち寄れる場所であって欲しい、
次の時代もその先も。
そう、ここは京都なのだ。
何代も続く老舗も、こうして受け継ぎ、次代に託す役割の一齣として繋げてきたのである。跡を取る役回りである私がすべき事はただ一つ。
繋いでいく姿を見せること。
エネルギッシュな大都会にはない、これが京都流。
そう信じているし、そうに違いないと確信しているのだ。
今まで使ってきたヴィンテージガラスや電気の碍子線、足音を刻んできた古床材など、
出来る限り新旧を織り交ぜた状態で完成させていく予定だ。
来春に至るプロセスも時折お伝えしていきたいと考えている。
資金がある訳でなく必死のパッチ。
背水の陣のプロジェクトではあるが、温かく見守って頂けると幸いである。
株式会社 山城
三代目 稗真平
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皆様には多大なご迷惑をお掛けしておりますが、館の完成は来春予定です。
それまでは下記の住所で小さく予約営業をしております。
サンプル落ちやサービス提供品もご用意しておりますが、基本的にはどんな商品なんだろう、どんな肌触りなんだろうを確認して頂く役割を与えただけの店舗となっており、お求めはWEBショップへご案内する営業スタイルです。
ご来店希望の方は、まずご予約を。
来春、私達の元気な姿をお見せ出来るよう今後も邁進してまいります。
それまでは下記の店舗をご贔屓いただけますよう、心よりお願い申し上げます。
詳しくは【 お知らせ 】 仮店舗での営業開始コラムはこちら>>>
株式会社 山城 仮事務所兼店舗
〒600-8096
京都市 下京区 東洞院通 仏光寺下ル
高橋町613-11
TEL 075-221-4456