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華やかな世界 –

慰安旅行から帰ってからというもの、自身の未来を真剣に考え始めていた。
ご存知の方もおられるかもしれないが、私は大の麺好きである。

これを起点にラーメン屋を開業しようと考え、昼は建築資材の運搬、夜は掛け持ちバイトでラーメン屋や製麺所の門を叩いた。考えても答えの出ない問題が起きたとき、私は行動に移すことを心がけていることもあり、次なる課題、いや夢のようなものが生まれ始めた。
憧れのアメリカ移住計画である。

日本で製麺所、ラーメン屋で修行したらアメリカで開業しようか。
いや何店舗かを修行行脚して、まず京都で開業してから海外かといった具合に。

こうなると夢は鼠算で膨み心は躍るが、同時に問題や課題も生まれる。
すると解決する方法を見出すしかないから動くのみ。
動くと人は聞いてくるから退路を断たれる。
そんな具合に新しい光が舞い込み、私の長く続いた迷路の出口が見え始めていた。

行動一歩目は、夢に一歩でも近づく関連先のバイト先探し。
8時〜19時までは昼職で拘束されるから、それ以降で働けるラーメン店。
しかも自分が好きなラーメン屋さんや有名店のバイトとなれば皆無だった。
少しハードルを下げても無い。時給が良くても歯車として働くチェーン店は全く興味が沸かず、ならば就職だとなり、今では全国区になった大阪の”道頓堀 神○”の就職面接に行った事もあった。

就職先には言えない案件だから、こっそり働くしかない。
開業するにも先立つものは明日明後日で貯まる物ではない。
仮にお気に入りのラーメン店で働けたとしても、開業資金を得るまでには相当な時間がかかる。修行を終え、アメリカに渡ったとてすぐに開業できる訳でもない。
修行を重ねる事が美徳とも言える、古い考えに囚われていたのかも知れないが、早る気持ちと裏腹に、直面する現実の間で最終的に出した答えは”お金が先”だった。

お金の為に費やせる時間は19 時〜24時の5時間。
職種は限られ、キャバクラやクラブのウェイター、非合法カジノ、ホステスさんの送迎など。ダークウェブ的な職種を紹介してもらう事も可能だったが、自ら絶った”その世界”にまた戻る選択は絶対にしたくない。合法的に対価を得、未来に繋げたかった。

そうして私が選んだのは祇園の花屋さん。
営業は24時までに加えて賄い付きだったこのお店は、今でも東山通に面して営業されており、祇園では数店舗ある名の知れたお花屋さんだった。面接に行くと初っ端から「 体力ありそうやね 。いつから来れる? 」と即採用いただいた。
体力がありそうだと言うのが引っかかったが嬉しかった。

私がお店に着く19時前は正に戦場で、夜の街が動き出し、店舗にお客様が入り出すまでの”しつらい”としての花替え、誕生日を迎えるホステスさん用のスタンド花など、それらは一様に大きく、体力の要る内容ばかり。

中でも大型店舗の”しつらい”は相当な物で、ドラム缶ぐらいある花瓶?鉢? を生け替えるのは、大人3人でも厳しく、持ち込むお花も相当な量だった。

20時をまわると今度は店舗への来店が増え、お気に入りのホステスさんに贈る”胡蝶蘭”を始めとするお花や花束の配達が主になる。この店舗の管轄は花見小路まで。花見小路から縄手通までは系列店舗が受け持つシステムで、東山通から花見小路までの”夜の街”を週6で駆けずり回る毎日を過ごす。

2〜3ヶ月もすると店舗名や場所、有名ママさんも覚えてくる。
最初は昼間の仕事と同様に元気よく「 毎度〇〇です! 」と配達していたのだが、小さな店舗では戸口からすぐソファという事も少なくなく、裏方さんに怪訝な対応される事も多い。
なぜだろう商売なのにと考え、反省したこともあった。

贈る方はタイミングよく運んで欲しい。
貰う方はあくまでもサプライズであって欲しい。

これに気づいてからは静かに入り、戸口で裏方に渡すのが通例となった。
大きい店舗や忙しい日は難しいが、配達を頼まれると来店時間から凡そ30分内を目処に届くよう走った。店に入ってからは黒子に徹し、それでも夜の世界でうろついていても大丈夫なよう襟付きシャツを着るように心がけた。

お花を花屋で注文して10分もあればお店に着く。
「あら〜〇〇さん来てくれたのね」なんて会話をすること10分〜15分。
手ぶらで入った後、次の一手としてのアイテムが花になるよう心掛けた。

しかしあくまでも”お金の為”のバイトである。
短い期間で軍資金を貯めれるように、昼の仕事で得た対価は全て貯蓄、バイトで得たお給料で1ヶ月過ごすように心がける。その頃の時給は覚えていないが、800円ぐらいだっただろうか。
それでも今よりは自由に使える額が多いのは子育て世代あるあるだと思うと面白い(笑)

徐々に軍資金は貯まるが、ラーメン屋開業へのベクトルは少しずつ方向が変わっていく。
少ない余暇の中、英語への耳慣れをするため、字幕なし映画を観る課題は続けていて、アメリカへの憧れは相当に膨れあがっていく。行こうと思えば直ぐにでも行ける貯蓄になったのも大きかったのかも知れない。

沸々とその欲求は高まる中、ある日お花を配達した先で出会った人がいた。

三代目のコラム 記憶を辿る56話に続く

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