記憶を辿る 46話
– LA –
一丁前になれと諭され、どうすれば良いのか考える日々が続く。
絨毯営業をかけられる訳でもないし、お得意様商売。
ならば私の特徴を出していこうと考え、店で受けた注文は素直に「はいっ!はいっ!」と受け、超絶早く在庫を出すように心がけた。現場や作業場に届けて職人さんが居られたら
「何か足らない物ないですか? あの部品足りてます?」
と足りてるような物でも意識的に聞く。
今すぐ必要でなくても、定番的な部品の底はすぐに尽きてくる。
「ほんなら、持ってきといて」と職人さんも快く注文を下さり、どんどん取れるようになった。こうなってくると職人さんの来店時には、ただ在庫を出す作業が「真平いるか?」と名指しでお越しくださり、次に予定している現場の話を引き出すようなコミュニケーションが取れるようになってきた。
何か道筋が見えたように感じていた。
ときどき、若い子が「思っていた部署と違って面白くない」「やりたいと思っていることと、命じられた仕事に乖離があってなんだか辛い」「そもそも入った会社の商品に興味がない」と言うことを耳にする時がある。
そんなとき、ドラフト1位で入社した訳でも、大した実績があることもなかろうが…と微笑ましくなる。馬鹿にしているというのではなく、自分のなかで、自分自身を過剰評価していることが愛おしくなる感覚を覚えるのだ。
そんな子達には心を込めて「嫌とか言わんと目の前の事を全力でしよし」
「今の状況で先が作り出せないのなら、希望の場所に行っても何も生めへんで」
とお伝えできればな思う。
目の前の事を全力で向き合うことで、新しい自分に驚くかもしれないし、やりがいや改善点を見つけられるかもしれない。与えられる事に慣れてしまうと、自分だけしか持っていないポテンシャルを忘れてしまう。
いつの時代も”やりがい”という物は与えられる物ではなく、
自分で作り出すものだと思う。
初めてのロサンゼルスは正に「ユナイテッドステイツ!」
乾いた空気、どこまでも青い空、思い描いていたそれより遥かに大きく、地平線は歪んで見えた。陸橋の落書き、コンビニのお菓子、ショーウィンドウの鉄格子、その全てを自分の記憶の中に収めたかった。
ルート66から連想するアメリカの自由を肌で感じたかった。
全社員総出の社員旅行だったが、大きなバスで移動するのではなく、昼は個々で観光し、夜は全員で晩御飯というスタイル。なんせ憧れのロサンゼルスなのだ、行きたい所は山のようにある。好きな所に行ってくれるというオプショナルツアーに先輩と申し込んだ。
希望する所に行ってくれると言っても、定番的なチャイニーズシアターやロデオドライブといった所を周ろうとするツアコンに嫌気が差し、ロスの中で悪名高きコンプトンを始めとするサウスセントラル地区や、スキッドロウに行くよう強く要望したが、激しく却下された。
「あなた達はロスの怖さを知らない」
こうして希望を訴える中で、唯一ツアコンの許しを得たのがベニスビーチとガンショットショップだった。それでも観光客よりもローカルが増えてしまうベニスビーチはかなり嫌そうだったのだが、ベニスビーチでは観光コースにはないスリリングな体験と、彼らの逞しさを垣間見ることができた。
ベニスビーチといえば、水着をきたお姉ちゃん達がインラインスケートで遊歩道を流しているようなイメージだと思うが、在庫ゼロのサンドアートや親子の弾き語り、ユニットによるダンスなどが鴨川の河川敷よろしく(5m等間隔)でパフォーマンスされていた。
まさに自由を感じる場所だった。
現在は知らないが、当時は一歩裏路地に入るとゴミは散乱していたし、チカーノによるローライダーやバイカーの集会が行われていて、傍目にも治安が良い地域だとは思えなかった。浮浪者が寄ってきて「シガレットシガレット」としつこく詰め寄る場面もあって、先輩が日本語で「うっさいねん、お前」と蹴散らしていたのを思い出す。
ここではアメリカ初進出という事でTatooを付け足した。
それこそ若気の至りの象徴なのだが、知り合った彫り師の見習いに”そこらで野垂れ死んでも身元が判るように”と私がイニシャルを15歳ぐらいの時に入れてもらっていた。
牛丼一杯で刻んだ思い出に加えるよう生年月日を付け足したのだ。
ナントモダサイタトゥーダ…
このTatoo、15歳の時に入れたイニシャルは和彫だったのだが、使用した材料が墨汁だった。アメリカでマシンを使った洋彫を入れた時には、既に5〜6年経過していたから同じ黒でも濃淡が出来てしまう。それに時代が変わっていくにつれ、大きな銭湯では入店拒否、または途中退場を求めらる事も多くなってきた事もあって、今ではレーザー除去で跡形もない。
時間もお金も高くついた若気の至り、ここで披露しないでも良い話ではあるが、私の子供達がまさか決心した時には、何を入れるのかをちゃんと聞いてデザインしてあげたいと思う(笑)