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株式会社 山城 やましろ 三代目 コラム ブログ 日記

カミングアウト

今でこそLGBTQという名称で言葉も和らぎ、性の多様性が認められる時代になったが、
当時は成人映画を上映していた八千代館前に屯する”恐ろしの森”のような清潔感などがない人も多く、
皆が嫌悪感を露わにするような時代だった。

ただ私自身は22話でも記したように、近所のお風呂屋さんで数々の森の住人を見てきた事や、父母から発せられる差別的発言がなかったこともあり、多様性を持った人達に抵抗もなく今も接しているのだが、前話にある私が停学になるきっかけとなった人物もそんな人間だった。

入学当初、目立つ者に先輩のチェックが入る。
あの子は可愛い、格好いい、生意気そうだなどといったような具合だ。

私はスケートボードを通じた先輩が在学していた事や、扱いに困りそうな新入りだった事もあり、
飛び級的に彼らのチェックを回避していた。
そんな中、同新入生の中にナヨナヨとしながらも肉体は消防士並みに鍛え上げられた男子が1人いた。

仮にPという呼称にしておこう。

ピチピチTシャツにベルボトムを好んで着用していた彼は、お尻をクィックィッと燻らせながら歩くスタイルで校内を闊歩する。外科医のようにハンカチで汗を拭う毎日に、当然ながら先輩チェックが入り、校内でも目立つ存在になっていた。ただ彼は口が超絶悪かった。

「 Pくん、おはよう 」
「 うっさいブサイク 」

全員にこの返答をしていたならOKだっただろうが彼も若かったんだろう。
小綺麗にした可愛い子達には真逆の対応をするものだから敵も多く、
正規の学級生達とは馴染めずにいた。

そういう連中は正規と別で一個連隊を形成しだす。

休憩時間の度にタバコで集まり、次第に深く話すようになっていくのだが、この年代で話をする内容といえば恋愛かファッション、音楽や部活動、地元の話ぐらいである。口火は私が切った。

京都市 中京区 会社 高校生 思い出 出来事

「 P さぁ、この中やったら誰が良い? 」

こう聞いた記憶がある。
全校周知ではありながら未だ疑いのある状態。
先輩や同級生チェックが入ってもPは否定していた。

「 誰々くん 」

即答だった。
一個連隊の中に推しがいたPは、この場が彼への告白の場だと考えたのか、
はたまた疑いをすっ飛ばした私の押しに契機を見出したのかは分からない。
ただここでも口の悪さを発揮し「 背が低いから100%じゃないけど」と言って
推しの彼からは「なんでフラれなアカンねん」と反感を買っていた。

そんな彼だったから、私は好意的でも連隊内では嫌う者もいた。
そんな事は露知らずのPは、カミングアウトを境にシースルーのシャツに太腿を露わにした網タイツに短パン、編み上げロングブーツといったハードさを極めたファッションで通学するようになっていく。
そのコンディションがマックスに振り切ったのが修学旅行の最終夜だったのである。

江戸の酒盛りえぇじゃないか状態のフェリー内。
連隊内の友人1人には、以前から恋焦がれる女子がいた。
酔った勢いもあって声をかけようと近づくと、その友人とは競の合わない男と彼女が既に仕上がっており、友人としては後退せざるを得なかった。
一言も発せないまま失恋した悔しさや抑揚を抱えた彼の感情は、普段1滴も口にできない酒を求め高揚した。
その異様な光景を見た泥酔のPが解き放つ。

「お前みたいなブサイク無理やろ」

The END
友人の平手がPに飛ぶ。
思わず手が出たのだろうがPは女子だった。

例えそれが平手であっても耳が聞こえない、目が見えない、歯が折れたと泣きじゃくり始めた。
この騒ぎを聞きつけた先生に2人は御用となり、その場にいた私や止めに入っただのといった連中も同様に御用。
帰京してから連日会議室に呼び出され全員が停学になった。

学校側としても、誰かをスケープゴートにしなければ収まらないフェリーでの失態だっただけに仕方がなかったのかもしれないが、誘導尋問や仲間を売り飛ばさせようとする姑息な攻めに私は辟易し、今まで以上に反抗心や猜疑心を持つことになっていく。

そんな思い出深いPなのだが、後に中途退学の道を選び去って行く際

「あの時から私は生き方を変えられた」

と感謝の言葉を私に伝え、去っていった姿を忘れられない。
いくら言葉を変えても恐ろしの森の連中を揶揄する世間だが、
人には言えない苦悩、伝えても分からない一抹の寂しさを抱えている。
TVや酒場で見るポジティブさは彼らの断片でしかない。
Pの今は知らないが、ネガティブ要素をプラスにもっていくしかない森の住人からは教わることは今も多いエピソードだ。

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